タエコはナンバーガールのライヴアルバムを聴き終えた後、友達みんなにその素晴らしさを伝えようと電話を手にした。しかしながら、みんな、とは数えることもないほどのわずかな数だった。友達の少なさ加減をタエコは再認識する。
〈こんなことではいけない。たくさんのイカした友達、そしてカッコいい恋人を見つけなくっては!〉とタエコが思ったかどうかは知らない。でも、タエコがアルバムを聴いて何か決心したのは間違いなかった。
次の日、タエコは学校とバイトをサボった。久し振りにギターを弾いた。ますます下手になっていた。そのうち何回か電話がかかってきて、それをやり過ごすのは気が滅入るから(タエコは基本的に小心者)、散歩に出かけることにした。よく晴れた気持ちの良い天気ではなく、結構強めに雨が降っていた。買ったばかりのスニーカーが汚れた。かっこいい男とすれ違ったりもしなかった。立ち寄ったコンビニでは入り口に置いていたビニール傘を持っていかれた。駅前のショボイ喫茶店で雨宿り。注文したナポリタンは給食の味がした。雨は止みそうになかった。あきらめて家まで走って帰った。雨に打たれて、九十七年のフジ・ロック・フェステバルを思い出す。一緒に行ったミオは寒さで死にそうになっていた。ヤッコはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのライヴで行方不明になった。二人とも今は母親になった。ふと、切らしていた洗剤を買い忘れたことを思い出す。部屋には洗濯物がたまっていた。〈まあ、こんな日もあるわ〉とタエコは思ったのだった。
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こんなふうにマサオとタエコは、平凡な日常を生きている。いつか二人はどこかで出会う? それは誰にもわからない。
続きは九番目の話で。
2002年12月記