カテゴリ:400字小説( 95 )

【400字】東京タワー【没テイク】

東京に住んでいた時、

東京タワーに興味はなかった。

でも離れてみて、それが東京どころか、

この国の象徴であることに気づかされた。

今はスカイツリーができたけれど、

都民にとっては

往年の野球小僧の憧れ・

王貞治さんくらいの存在なんだろう。


上京した頃、

狂ったように聴いたくるりの『東京』。

そのシングルジャケットにも、

それがそびえ立っていた。

くるりが好きだ。

特にこの曲が。

曲中の『きみ』にフラレた主人公の

気持ちとシンクロした。

なのに、もうあの子のことは忘れた。


人の気持ちなんて3年もすれば変わる。

だから本当のことを言うと、

くるりも本当はすでに好きじゃない。

ボーカルの岸田くんに憧れていたけれど、

以前ほど愛せない。

20年近く惰性でアルバムを買っている。

去年、Mステでくるりが

『東京』を歌った時、

妻に感想を訊かれ、こう答えた。


「昔の方が良かったな」


僕も変わったもんだ。

来月、スカイツリーへ行く。

わーい。

でも東京タワーには行かないよ。(了)






















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by nkgwkng | 2017-07-18 21:26 | 400字小説

【400字小説】 貴様 【没テイク】

私は中川よしの。
自分で淹れた珈琲を飲みながら、
珈琲についての短い文を書こうとしている。
とはいえ、誰がこんなくだらない
掌編小説を読むのであろう。
いたとしても、それはおそらく
ボランティアの人に違いない。
そうだとしたら、貴様は偽善者……。

おっと、折角、このクソ面白くもない文章に、
時間を割いてくださる方に、
そんなことを言ってはいけない。
どうか許して。
私は精神が不安定なのだ。
いつだって決壊寸前、いっぱいいっぱい。
だから私が書く長編小説は
生と死がテーマである。
ぜひ私の長編小説を読んでいただきたい。
きっと貴様を絶望の淵に
突き落とすことは間違いなしだ。
私はバッドエンドが好きだからなんだ。
てか、まあ、そんな小説、
読みたくもないよな。
私だって書きたくない。
ハッピーエンドの物語が書きたい、
でも書けない。
そんな苦い思ひを、珈琲を飲む幸せで打ち消す。
私は珈琲が大好きだ。

いや、嘘。

好きでも嫌いでもない。
でもね、貴様は好きだ。
だって今これを読んでくれているから。
御礼に今度、私の淹れた珈琲を飲ませてやるよ。
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by nkgwkng | 2016-01-31 15:25 | 400字小説

【400字小説】 肉 【没テイク】

4時間半かけて食べに来た牛肉づくし。
「おいしねえ」と二人は満面の笑みで食べた。
「今度は彼氏と来たいな」とイクコ。
「え、彼氏できたの?」とハグミ。
イクコは「なわけないじゃん」と笑う。

「彼氏作ったっていいんだよ。
イクコはわたしと違ってかわいいんだから」

「男なんてメンドクサイんだよ。
ハグミとデートするのが楽しい」

それは嘘だった。
イクコには最近できた彼氏がいた。
なんとなく言いづらくて、
ハグミに告白できずにいる。

「そう言ってくれて嬉しい」とハグミは
イクコの言葉を鵜呑みにした。
話を続ける。

「イクコの今年の重大ニュースって何?」

「えー、ピンサロ嬢を始めたことと、
弟がゲイだっていうカミングアウト」

「濃いー」とハグミは笑う。

「ハグミの重大ニュースは?」

「あたしじゃ、イクコに勝てないよ」と笑う。

「でもあるでしょ」

「うーん、イクコと旅行できたことかな。
好きなのイクコが……」

微妙な間ができる。

「なんつってー」と言って
ハグミは七輪で焼かれた肉に箸を伸ばした。
じゅうじゅうと肉汁が滴り落ちている。
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by nkgwkng | 2015-12-27 07:53 | 400字小説

【400字小説】UFO【没テイク】

季節外れの転校生は宇宙人だった。
誰も気づいてないけれど
私には一目でわかった。
だって私も地球人ではなかったから。
私はクラスで目立った存在ではない。
でも転校生の彼女は違った。
美人でモデルみたいなスタイルだったから
クラスどころか、学校中の注目を浴びた。
ダサいこの学校の制服も
彼女が着ると洗練されたデザインに
見えたほどだ。
転校から1週間で20人の男子に
告白されたという噂もあった。
彼女とは友だちになれそうになかった。
私はイケてない女子グループの
一員だったから、
華やかなグループに入る術はなく、
彼女に話しかけるチャンスなど
なかったのだ。
彼女は私も異星人だってことに
多分、気づいていない。
知っていたら声を掛けてくれるはずだもの。
そんな彼女は梅雨が終わるとまた転校した。
校庭ひとつ分のUFOに乗って
派手に去って行った。
みんな驚いていたけれど、
その記憶も消し去っていなくなった。
私を除いたすべての人を騙した。
あの日から夏が始まった。
彼女は雨を降らせるために
転校してきたんだと、私は思っている。
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by nkgwkng | 2015-06-10 10:00 | 400字小説

【400字小説】ドラマ【没テイク】

Aは流行らないドラマにハマっている。
昨夜も録画したドラマの恋人同士が
離れ離れになるシーンを見て涙した。
Aがドラマを観るのは、
リアルは厳しくて退屈だからだ。
夢なんてない。
そんな日常をドラマを観ることで
なんとか誤魔化して生きている。

Zはバンドマンだった。
夢は東京ドームでライブをすること。
蔑まされて生きている人生を変えようと
音楽で必死にもがいている。
先日、メンバーが「結婚するから
バンドを辞める」と言った。
幸せになる彼を羨ましくも思ったが、
Zは夢を生きると固く心に誓った。

ある日、駅前のスクランブル交差点で
横断歩道を渡る時に、
この見知らぬ二人はすれ違った。
スーツを着こなすAと、
ギターケースを手にしたZが交差する時、
ふたりは肩をぶつける。
「すいません」とお互いに言葉をかわして
立ち去るAとZ。
Aは会社に戻り、Zはスタジオに向かう。
さようならの言葉はない。
二度と彼らが接点を持つことはなかった。
それは小さなドラマ。
そんなドラマの積み重ねが人生。
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by nkgwkng | 2015-04-12 00:00 | 400字小説

【400字小説】バックレる【没テイク】

社会人になって2週間で
会社に行くのがヤダくなった。
えばってばかりの上司、
文句しか言わない先輩、
少しも悪気のない顔で嫌味を吐くお局様、
みんなクソだ。
先週はそれでも踏ん張った。
会社に着くと満面の笑みをこしらえて朝の挨拶、
仕事終わりには「お疲れ様でしたっ」と
職場の人たちひとりひとりに頭を下げた。
しかし、それももう限界。
人間付き合いに疲れた。
立派な社会人の一員になろうとする
気力も萎えてしまった。
「人はなぜ働くのだろう?」という甘えた考えが
頭に浮かんでしまう。
「お金を稼ぐために決まってるだろ!」と
もう一人の自分が言った。
でもさ、そんなの虚しいじゃん。
そのことに気づいてしまったんだ、今朝。
それからベッドから出ずにtwitterしてる。
会社から何度も電話が来ているけれど、
出ないでいる。
あんな夢のない人たちの集まる会社になんて
もう行くものか。
なんてことを思ったけれど、
そんなことも頑張れない自分が
一番クソかもしれないと、
さっきtwitterにつぶやいたよ。
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by nkgwkng | 2015-04-11 00:00 | 400字小説

【400字小説】演歌系ブルース

「もう歌、やめたいです」と涼一が言ったら、
事務所の社長は激怒した。
それも無理はない。
彼を売れないバンドマンから
一人前の演歌歌手に育てたのは社長の手腕であり、
そのためにいくら遣ったか知れない。
売れっ子を多く抱える事務所の力もフル活用した。
それを涼一もよくわかっている。
だからこそ彼は葛藤するのだ。
金や権力、大人の思惑の狭間で歌うのは疲れる。
田舎育ちの純朴な青年にとってはなおさら。

「いつまでも子どもみたいなこと言ってるな、
バカタレ。お前は甘い。早く大人になれ」

社長はそのように涼一を一喝した。
結局、彼は歌うのをやめることはできなかった。

その年、涼一はNHK紅白歌合戦に出場。
母は感動の涙を流し、
父は涼一の曲を本人よりも熱心に練習した。
親孝行できて嬉しい。

だけど、涼一は複雑な気持ちだった。
マイクを握るその手は
コネや、ヤラセや、あぶく銭で汚れている。
涼一が深く悩めば悩むほど、彼はいい歌を歌う。■
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by nkgwkng | 2013-12-21 08:22 | 400字小説

【400字小説】運命じゃない人

出会ってしまった。
妻と出かけたスーパーで。
さだおのひと目惚れだ。
その人はレジに並んで、
後ろにいた客の赤ちゃんを見て微笑んでいた。
肩の上まで伸びた髪の毛が
サラサラ揺れている。
さだおは彼女に見惚れて、
品定めしていた食パンを握り潰していた。
「何してんのっ」と妻は言って
潰れた食パンをカゴに入れた。
彼女に見惚れていたことには
気づいていないようだ。
その後、妻の目を盗んで彼女を観察していた。
彼女が店を出ていった時は
失恋のように悲しかった。

帰り。
店を出てすぐの横断歩道で彼女が立っていた。
さだおは停車して彼女に横断をうながす。
軽く会釈をして行く彼女。
無意識で横断歩道を渡ったあとの後ろ姿を
目で追いかけていた。
後ろの車がクラクションを鳴らす。
慌ててアクセルを踏む。

「さっきから何ボケっとしてんだよ」

妻が吐き捨てる。
運命の人ではなかったことにがっかりしている。■
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by nkgwkng | 2013-12-20 17:46 | 400字小説

【400字小説】平和な病

岡沢じゅんは世界で初めて
ゾンビウィルスに感染した。
発病した岡沢じゅんは狂暴ではないが
生まれつき持った愛嬌のある笑顔で
人に噛み付く。
そのスマイルに油断した
友人や看護師たちが被害にあったけれど、
感染が広まることは楽観視されていた。
だが、それから28日後、
世界は「岡沢じゅんウィルス」に侵された。
それは瞬く間に広がり、
海を越えて世界を襲った。
全人口の80%がゾンビになり、
残りの20%は世界各地の避難区域に潜んで暮らした。
そこはハライソ(楽園)と呼ばれたが、
現実はその言葉からは程遠い。
裏切りや談合、
戦争や宗教対立などが絶えなかった。
一方、「岡沢じゅんウィルス」に
侵された人々はゾンビになりはしたものの、
愛し合って生きた。
戦争は一切なくなった。
岡沢じゅん本人は相変わらず。
熱狂的な信者からは
「神」とまで崇められたりしたけれど、
「そんな呼び方やめてよー」と
照れ笑いしてささやかな歌を毎日、
日本のどこかで歌い続けた。
「僕は歌えて幸せだよ」っていう笑顔でね。
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by nkgwkng | 2013-12-19 04:27 | 400字小説

【400字小説】ロックンロール

岡沢じゅんくんは演奏中、
酔っ払いに肩を噛み付かれた。
打ち上げの際、その話で仲間と盛り上がる。

「よく演奏止めなかったね」

「だってロックンローラーだもん」

冗談半分でじゅんくんは笑う。
その笑顔は印象的。
誰だって癒されるに違いない。
例えそれが悪魔やゾンビだったとしても。

         *

次の朝、目を覚まして
家のテレビをつけると
長野駅前でゾンビの群れが
市民を襲う映像がリピートで流されていた。
テレビにかぶりつく僕。
約30分後、生中継映像に切り替わる。
ゾンビが、ギターを持った青年を
取り囲んでいた。
じゅんくんだ。
木製のカウンターチェアに立って歌っている。
ゾンビはじゅんくんを襲わない。
それどころか歌に聴き入っている様子。
歌い終わるとゾンビから
拍手が沸き起こった。
その群れにじゅんくんは
「Yeahhh!」と叫びながらダイブ。
誰もそれを受け止めてくれなくて
アスファルトに落下した。
でもその日の夜、
じゅんくんは右腕にギプスをして
予定通りライブハウスで歌った。
その姿こそロックンロール。
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by nkgwkng | 2013-12-18 05:30 | 400字小説