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【掌編小説】物語はこれでおしまい。

国道18号線を時速80㌔で爆走。
カーステレオはイースタンユースの新譜を爆音。
アクセルを踏む。
時速80㌔から90㌔、100㌔へ。
赤信号は無視。
深夜3時、国道を走る車は少ない。
猫らしき小動物が目の前を横切る。
急ブレーキ。
猫を撥ねるのは避けられたが
車がスピンして制御不能に。
車は360°横回転しながらアスファルトを滑る。
スローモーション。
その時思い出したのは
10年前のきみとの記憶。

ベランダで煙草を吸っていたきみが
煙を吐きながら俺に言った。
「人生ってパーティーが終わって
誰もいなくなった部屋の虚しさに似ているよね」
俺は何も言わず後ろからきみを抱き締めた。
「そろそろ終電なくなっちゃうよ」
「今日は帰りたくないんだ、ダメかな」
ずいぶん長い間無言が続いて
長くなった煙草の灰がポトリと落ちた。
「奥さんには連絡しなくていいの?」
「あとでメール送っておくよ。今日は仕事で帰れない」って。
「徹夜ばかりの仕事だから奥さんも疑わないだろうね」
「嘘つきって言いたいんだろう?」
「いいの、私はきみを責めたりしない。
ねえ、したいのなら早くシャワー浴びてきなよ」
「バスタオル貸してくれる?」

すべてが終わったあと、きみは言った。
「不倫って虚しいね。人生みたい」

あの時のきみの横顔がフロントガラスに映った。
高速で回転しているはずの風景は
相変わらずスローモーションだった。
死ぬのかもしれないと思った。
けれど恐怖感はなかった。
むしろ死んで楽になれるとほっとする自分がいた。
娘や妻の顔は浮かばなかった。
愛していなかったからじゃない。
愛していたんだ、本当に。
だから家族のことを思い出さず
きみのことを思い出したのが不思議。
もうあれ以来会っていないというのにね。

きみは元気にしているだろうか?
もう誰かと結婚して
子どももいるんだろう。

俺はきみの名前を叫んだ。
スピンする車内で。
終わる寸前の人生の端っこで。

気が付くとガードレールが真横にあった。
車はガードレールにぶつかって止まるどころか
飛び越えて車は天地ひっくり返りながら
宙を舞った。
そのときのことはよく覚えていない。
だから何も書くことはない。

そのあと俺は事故のせいで
意識を失って病院に運ばれた。
意識を失っている間、俺はきみと暮らしていた。
小さな子どももいた。
新生児。
きみは本当に幸せそうな顔をしていて
「愛してるよ」って俺に言ったのだった。
あれは何だったのだろう。

きみに会いたい。
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by nkgwkng | 2012-09-28 17:55 | 掌編小説

【掌編小説】呼んでいるのは誰なんだ?

たぶん、きみ。
雨の日、水を張った田んぼにダイビングしたきみ。
日差しが激しい日に「焼けるのなんて気にしない」って笑ったきみ。
フジロックで「一番搾り」をうまそうに飲み干したきみ。
長野駅の地下道で酔い潰れて仰向けに寝転んだきみ。
今、僕の隣にいないきみ。

声が聞こえてるよ。
ドコニイルノ?
と僕は叫ぶが
返事がないからきっと僕の声は聞こえていないんだろう。

キコエマスカ?

あー、あー。

BGM/呼んでいるのは誰なんだ? eastern youth
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by nkgwkng | 2012-09-25 21:09 | 掌編小説

【掌編小説】ピーナッツ飴の婆さん

雨が降り出す。
俺は小走りで信号を渡り、
土産屋の屋根下に入って
肩や胸をハンカチで拭く。
すると雨は急に雨足を早めて
ドサーッと降り始める。
「こいつは困ったな」と思いながら
興味のない店内を歩く。
すると店番していた婆さんが
「すぐに止むだろうから心配しないでいいよ」
と独特の訛りのあるイントネーションで話しかけてきた。

「トーキョーの人かい」

「はい、そうです。
なんでわかったんですか?」

「兄さん、おしゃれなネクタイと
すらっとしたスーツ着てるから」

「安物のスーツですけどね。
褒めてくれてありがとうございます」

「あたしゃ、褒めたつもりはないよ」

そう言うと婆さんはニッと笑った。

十分くらい話しただろうか。
いつの間にか雨は弱まっていた。
「今のうちに行った方がいいかもな」と
顔をしわくちゃにして婆さんが言う。
俺はなんか買った方がいいかなと思い
目の前にあった野沢菜を手に取り
「これください」と言った。

「あー、無理して買うこたぁないよ」
と婆さんは一蹴した。

「無理してないです。
野沢菜食べたいと思ったんです」

「嘘こくな。
オレに気ぃ遣ってくれてるんだろうが
迷惑だね」

「……わかりました」
怒られた小学生のようにしょぼんとして
店を出ようとする。

「雨宿りさせてもらってありがとうございました」

「あ、これもってきな」

そう言うと婆さんは飴をふたつくれた。
砕いたピーナッツが入った飴。

それを今、新幹線のなかで舐めている。
はっきり言ってまずかった。
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by nkgwkng | 2012-09-22 17:42 | 掌編小説

【掌編小説】感受性ガ永眠

ダイチは越後妻有で行われた
「大地の芸術祭」に行ってきた。
「へえ」や「ほお」と感心して
一緒にいる妻や子どものことを忘れて鑑賞した。
だが衝撃的な作品とは出会えなかった。
齢37。
自分の感受性が
劣化してきているのではないかと
思い始めている。
先日買ったZAZEN BOYSの新譜もそうだった。
とてもいいアルバムで
毎日通勤の車のなかで聴いているが
以前のような感動や感情の揺さぶりが感じられない。
俺ノ感受性、大丈夫カ?
誰に問うでもなく自問する。
答えはない。
いや本当は答えを聞きたくなくて
耳を塞いでいるのだ。
俺ノ感受性ハ硬直シテイル。
帰りの車のなかで聞こえた声は間違いじゃない。
確かに聞こえた。
妻や子どもは後部座席で眠りに落ちていた。
カーラジオも流れていない静かな車内で
涙が出そうになった。
年は取りたくない。
永遠に20代前半でいたかった。
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by nkgwkng | 2012-09-18 11:49 | 掌編小説

【掌編小説】デブって言うな。

俺はデブである。

身長178センチ、体重90キロ。
だが俺をデブと言う奴に言いたい。
こっちだって好き好んで
太ってるわけじゃねえんだよ。
俺は21世紀の精神異常者
精神安定剤の副作用で太ってくんだ。
サインバルタかジプレキサかルーランのせいで太っているんだ。
こっちの身にもなってみろ!
数年前の写真を見るとせつなくなってくるぜ。
痩せていたからなあ。
いや、痩せてはいなかったけれど
平均的な体型であった。
身長178センチ、体重75キロ。
どうだい、ここ数年で15キロも太ったんだぜ。
どうしてくれるんだ!
今、俺のこと、デブって思った奴!
そこのお前だよ!
今日は安心して眠れると思うな!
寝室に忍び込んで
やかんからぬるいお湯を顔にかけてやるからな。
悪夢を見させてやるぜ。
覚悟しておけ。
それとこれだけは忘れるな。

デブは突然やってくる。

人間は急に太るもんなんだよ。
あたしは太らないわなんて屁こいてると痛い目に合うぜ。
肝に銘じておけ。
今日はもう寝る。
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by nkgwkng | 2012-09-15 20:04 | 掌編小説

【掌編小説】幸せが赤。

つまり僕が言いたいのは
「名前なんてただの記号」だということです。
だからこの小説の登場人物の名前は真剣に考えません。
だけれども、名前の「響き」は大切だと思います。
ポップさやキュートさが重要になってきます。

一人目の登場人物の名前は「朝顔くん」にしましょう。
朝顔くんは二十四歳です。
仕事はタウン誌の編集です。
ある地方都市の商店街の雑居ビルに編集部はあります。
朝顔くんには三つ年上の彼女がいます。
名前はそうだな、「金曜日さん」はどう?
金曜日さんは広告代理店で事務の仕事をしています。
街コンで朝顔くんと知り合ってからまだ九ヶ月ですが、
先日プロポーズされました。
朝顔くんのプロポーズの言葉は「結婚してください」。
いたってストレート。
金曜日さんは「こんな私で良かったら」とはにかみました。
先々週、土日を使ってお互いの両親のところへ
あいさつに行きました。
ひとまず成功。
先週、不動産屋へ行って同居するアパート探しをしました。
まだ良い物件は見つかっていません。
今週、朝顔くんが慕う中年女性のところへ
婚約報告をしに足を運びました。
彼女がこの小さな物語の三人目の登場人物です。
名前は「夕暮さん」と言います。

夕暮さんは朝顔くんの元上司で、
今はフリーランスのライターをしています。
作家になりたいので仕事の量を減らして、
毎晩十時から十二時までの間、小説を書いています。
雑誌編集の仕事を辞めたのは
体力的な限界を感じたのもありますが、
作家になる夢を捨てきれなかったからです。
年は四十五歳、結婚していませんが、
付き合っている男性はいます。
「おやおや、まあまあ」が口癖です。

さて、ここまでの六百八十八文字は物語の導入に過ぎません。
ちょっと長めのイントロダクション。
物語は朝顔くんと金曜日さんが婚約のあいさつをしに、
夕暮さんの家を訪ね、飲んだくれるシーンで展開されます。
夕暮さんが作ったパエリアやラタトゥイユが大きな器に盛ってあり、
テーブルの中央では金曜日さんの手作りギョーザが
ホットプレートで焼かれているところです。
一輪挿しのオレンジ色したガーベラは
テーブルの端に追いやられています。
三人で七百二十ミリリットルの赤ワインと白ワインを飲み干し、
夕暮さんが冷蔵庫のシャンパンを取りに立ち上がりました。
「♪あ~たし、な~んだか、酔っ払ってきちゃった~♫」
とでたらめな節で鼻歌を歌います。
そんな夕暮さんに金曜日さんも大笑い。
お酒の力も手伝って夕暮さんとの
初対面の緊張感もなくなりつつありました。
夕暮さんはお尻を振りながらシャンパンを持ってきました。
その時、お尻がテーブルにぶつかって、
その勢いでガーベラの一輪挿しが倒れそうになりました。
一輪挿しがテーブルからダイビングする前に、
朝顔くんがそれをナイスキャッチ。
……までは良かったのですが、
その拍子に朝顔くんはおならをしてしまいます。

プゥー。

一瞬、気まずいムードが部屋に漂いました。
「よく花瓶落とさなかったね。ナイス反射神経。
でも今おならしたよね?」と金曜日さん。
「う、うん」と朝顔くんは下を向きます。

「おやおや、まあまあ。顔、赤くしちゃって。
どうってことない、おならのひとつくらい。
彼女の前でするのは初めてじゃないんだろ?」

夕暮さんがフォローしてくれますが
「は、初めてです」と朝顔くんは
ますます顔を真っ赤にするばかり。
小学校低学年の子どもみたいにもじもじしています。
思わず金曜日さんは朝顔くんの顔を覗き込んでこう言いました。

「かわいい」

金曜日さんは朝顔くんのほっぺをつねります。
それから「おならくらいで嫌いにならないよ」と頭を撫でました。

「あー、もー、ほっといて!」

朝顔くんは顔を両手で覆います。
でもその顔は笑っていました。
「さあ、飲もう飲もう」と夕暮さんが朝顔くんの肩を叩きます。
そしてシャンパンに手を伸ばしました。

「あたし、シャンパンうまく開けられる気がしないんだけど、
きみは上手に開けられる?」

「俺、コツ知ってます」

「お、名誉挽回だ」と夕暮さん。

「もー、忘れてくださいよー」

ポンッ。

朝顔くんは慣れた手付きでシャンパンの栓を抜きました。
「やるじゃん」と金曜日さんが肩にパンチ。
「痛ぇな」と笑いながら夕暮さんのグラスにシャンパンを注ぐ朝顔くん。

注ぎ終わって改めて乾杯。
黙り込んでシャンパンを味わう三人。

「おなら臭くなくて良かったわー」

「だからー、もうやめてくださいよー」

三人とも笑っています。

「こういうささやかなことが幸せというものだと思うのよ」
と夕暮さんが呟きます。
「そうですね」と金曜日さんも微笑みました。
だけど、朝顔くんの顔はまだ赤色のまま。
それはお酒のせいだけではありませんでした。〈了〉
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by nkgwkng | 2012-09-13 12:12 | 雑感<日記>

【掌編小説】人生が知覚過敏

歯が痛い。
左下の奥歯。
冷たい飲みものが滲みる。
だからビールもうまくない。
夕方からビールを飲んでBSで相撲を見ている。
幕下から。

酔っぱらってきた。
家猫にじゃれつくが怪訝とされる。
なぜか脱ぎたくなってパン一で
相撲を見る。
腹が出ている。
俺の腹が。
今年で37になる俺は
立派なおっさんだった!

夏は終わったのか?
夏は終わったのか?
俺はパン一で相撲を見ている。
BS。

上手出し投げ。
相撲の決まり手。
人生丸投げ。
俺の人生、他人任せ。

健康な歯を返してくれ。
コーラの飲みすぎで歯が溶けた。
なんていうのは言い訳。
溶けるはずがない。
まだまだ俺、子ども。
イミフなところが俺らしさ。
理解してもらいたくてこれを書いてるんじゃない。
なんだかよくわからんが
面白いなって思ってもらえるとサイコー。

にしても歯が痛い。
でも歯医者に行くのは嫌だ。
もっと痛いから。
さっきから歯をシーシー鳴らしてる。

ビールを飲む。
歯に滲みる。
痛いからおいしくない。
だったら飲むなと言いたいところだが
俺は飲まずにはやってられない。

俺はニートだ。
引き篭もりだ。
妻に養ってもらっている。
恥ずかしい。
情けなくて涙が出る。

相撲が終わる。
6時のニュース。
ビールも終わる。
350mlの空き缶が7本。
テーブルに整然と並べられている。

小説の終わらせ方がわからなくなった。
俺は何を書きたいのだろう。
何も書きたくないのかもしれない。
誰かに書け、書け、書けと脅されているような気分。
強迫観念。
神経衰弱。

歯が痛い。
痛い、痛い、痛い。
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by nkgwkng | 2012-09-11 18:05 | 掌編小説

【掌編小説】イントロ

昼間っからひとり酒飲んでひっくり返ってる。
俺の眼(まなこ)は濁っている。
俺の眼は濁っている。

いつになったら社会復帰できる?
精神が不自由な俺。
いつになったら社会復帰できる?
精神が不自由な俺。

よおよお、お前さん、元気かい?
調子はどうだい?
よければ少し寄っていきなよ。
このビール、うまいから飲んでみなよ。
長野の地酒だ。
お前さんはどこから来たんかい?
え?
〇〇だって?
そりゃ、えらいとこから来たもんだね。
俺?
俺かい?
実は俺は長野県生まれじゃないんだ。
石川県は粟津温泉ってところの生まれだい。

なにやってるかって?
見てみろよ、こうやって
どうってことない小説書いてるんだい。
どうだい、つまんねえだろう。

へへ、正直でいいな、お前さんは。
今度書こうと思ってる小説はこうだ。

「きみとの空白の15年間を埋めるためにこの小説を書く。
この15年間で俺は何人もの女性にフラれ(きみを含む)
結婚し、失踪した。
失踪は一度きりじゃない、2回だ、
子どもができてから1回。
合計3回。
俺は死のうと思ったがなんとか生きている。
自殺未遂3回。
いやもっと多かったかな、忘れちまったい。
ビルの屋上の淵に立ち、
首を吊るための輪に頭を通したこともある。
だが俺は死ねなかった。
精神安定剤を多量摂取して死のうとしたこともあるが
これまた死ねなかった。
それで精神病院にも入院した。

小説書きとしてはこういう人生の方がネタになる。
だけれどもそれはしんどいんだ、心底。
ネタにもならない人生で満足したい。

現在は精神は安定している。
けれども、いけないことに
人間として面白くない気がしている。
だから面白そうな俺の人生の一部分だけを小説にする。
つまり俺の面白い過去全部をきみに捧げる」

どうだい? 気持ち悪いだろ?
きみとはお前さんのことだい。

元気してた?
俺は今日、昼間っから酒飲んで
ひっくり返ってたよ。
俺の眼は濁っている。

いつになったら社会復帰できる?
精神が不自由な俺。
いつになったら社会復帰できる?
精神が不自由な俺。
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by nkgwkng | 2012-09-10 18:26 | 掌編小説

【掌編小説】貴様の勝手にしろ

懐かしい友人から久しぶりにメールが届いた。

チョーシ ハ ドウ?
シバイヤッテル?

そんなメール。

……と書いたはいいが
その後の展開が思いつかず
3分間フリーズ。
無駄な3分間。
その3分で何ができるだろう。
カップラーメンを食べられるようにできる
と書く俺の発想力は貧困だ。
3分で洗濯物を取り入れることができたはず。
空は曇り模様。
あと3分もすれば嫁が帰ってくる。
あと3分もすれば娘が帰ってくる。
「ただいま」
「おかえり」
のやりとりやハグを
3分かけて入念にやりたいものだ。
それこそが幸せというもの。

俺は幸せ者だ。
好きな人がいる。
俺を愛してくれる人がいる。
数は少ないけれど。

って俺、また何書いてんだ。
いつものようにパソコンを
投げたくなる衝動に駆られる。
自分の才能のなさにあきれ果てる。
呆然とする。
唖然とする。

これが面白い小説かどうかは
俺が判断することじゃない。
これ、に限らず、
俺の書いた、書く、
どんな小説でもそうだ。
自分でクソだと判断せずに
インターネットにアップロードしてしまえ。
判断するのは貴様だ。

勝手にしやがれ。
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by nkgwkng | 2012-09-03 18:08 | 掌編小説