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【400字小説】理由

「今日も学校行かないの?」

母親の希和子が台所から振り向いて訊いた。
朝食の皿を洗っている際中。
水道は流し放し。

「行かない」

悠貴はケータイから目を逸らさずに答える。

「どうしてか、
まだ教えてくれる気持ちにならない?」

シンクで水滴と洗剤の泡が弾ける。
悠貴は希和子の言葉に答えない。
希和子は諦めて皿洗いに手を戻す。
その手は年齢のわりに疲れていた。

「りんご食べる?」と
切ったりんごを悠貴の前に置く。
爪楊枝で刺して無理やり視界に入るように
りんごを差し出した。
それでも悠貴はそれを無視する。

「学校つまらない?」

悠貴に差し出したりんごを希和子は自分で齧る。
ファンヒーターがゴゴゴと音を立てている。

「お母さんは仕事行きたくない日とかないの?」

視線をケータイに目を落としたまま悠貴が言った。

「行きたくない日もあるよ」

「なのになんで行くの」

「それは仕事だから」

希和子は力なく笑った。

「……なんで学校行かなくちゃいけないのかなあ」

ポタ、ポタと水滴がシンクに落ちている。■
by nkgwkng | 2010-12-08 18:00 | 400字小説
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