きみ、そこのきみ!
これはきみに向けて書かれた日記だ。
きみたち、ではない、きみにだ。
今日は古川日出男という小説家の
「スローモーション」と「8ドックズ」を読んだんだ。
病院の待ち時間では読み切れなくて
診察後の駐車場、炎天下の車の中で読んだ。
とてもカッコのよろしい小説だった。
俺も書きたい、ああいう小説を。
だが今書いたらただの真似になってしまうな。
この日記がそうであるように。
俺は影響を受けやすいのだよ。
真っ黒い拳銃がほしい。
それを持って銀行強盗する。
誰も殺さない。
きみにはイメージできるか?
そのときの拳銃の重みと質感を。
きっと俺は包囲されるだろう。
俺たち、じゃない、俺だ。
たったひとりで銀行強盗する。
繰り返すが誰も殺さない。
かすり傷ひとつもつけはしない。
俺は包囲されて絶望する。
ぜ、つ、ぼ、う、す、る。
絶望して拳銃をこめかみにあて
さようならもありがとうも言わずに
引き金を引く。
たとえば俺が死んだら。
そっと忘れてほしくない。
俺がいたことをたまには思いだしてくれよな。
きみ、そこのきみ!
これはきみに向けて書かれた日記だ。
きみたち、ではない、きみにだ。