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【掌編小説】Blueberry Of The Dead

ブルーベリー畑で、こんにちわ。
そこできみと会った。
私はゾンビに噛まれて
白いTシャツの首元から胸までが血みどろ。
でももう痛くない。
私もゾンビになったから。
私はひどくきみのことが食べたくなって
きみに懇願した。

「きみのことがすごく好きだけれども
それ以上にきみ自身を食べたくなっちゃった。
一口でいいからその首元かじらせてくれない?」

そう言うときみは
「私はゾンビになりたくなんかない」
って言いながら私を抱き締めたよね。
ぎゅうっと。
その隙にあなたの首元をかじることもできたけれども
それはフェアじゃないなと思ってそうしなかった。
ちらりと見つめたきみのうなじがきれいだったよ。

高速道路の橋脚の下で
自動車の走り去る音に混じって
尺八の音を聴いたのは幻聴?
次に聴こえたのはフラメンコ調のギター。
きみが「こんな姿になってもきみのこと愛してる」
と耳元で囁いてくれたのも幻聴だったのかな?
そうだとしてもきみが私を抱き締めてくれたのは確か。
その感触やぬくもりはよぉく覚えている。
私も「愛してる」と言って泣いた。
もうさっきまでの関係に戻れないことを悔やんだ。
それならばいっそのこと、きみをかじって
私と同じにすれば良かったのかもしれない。

きみが拳銃を私の眉間に突き出したことには驚かなかった。
私はこれ以上ウイルスが身体を侵したら
理性がなくなっていよいよきみを襲うだろう。
そんなことになるんだったら
きみに撃たれて死んだ方がマシだと思った。
きみの右手の人差し指がトリガーに掛かって
あとはそれを引けばいい状況になったとき思い出したことがある。

きみと手を繋いで芝生に寝転んだ、夏のこと覚えてる?
空がひどく青すぎてまぶしかったね。
私たち、女同士で手を繋いでいたから
ほかの人はどう思ったのだろう。
私はいつも人の目ばかり気にしていた。
でもきみは人の目も憚らず私を愛してくれたね。

でもきみは私に向かってトリガーを引かなかった。
きみは銃口を口に突っ込んだかと思ったら
トリガーを引いた。
きみの頭が壁に投げつけたトマトみたいに飛び散って
私は返り血を浴びた。
ねえ、そんなのってズルくない?
なんで私を残して逝ってしまったの。
私もきみのあとを追いたくて
銃先をこめかみに当ててトリガーを引いたよ。
でも空砲だった。
弾は一発しか入ってなかったんだね。

ブルーベリー畑で、さようなら。
そこできみと別れた。
私はゾンビに噛まれて
白いTシャツの首元から胸までが血みどろ。
でももう痛くない。
私もゾンビになったから。
私はひどくきみのことが恋しくなって
頭が吹っ飛んだきみに泣きすがった。
by nkgwkng | 2012-08-22 23:54 | 掌編小説
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