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【掌編小説】クソゲー

権堂のネオン街から外れた地下ビルに、
店名のない場末のスナックがあった。
客は二人。
地獄達磨はカウンターで
ウイスキーのロックを片手に
今にも撃沈寸前。
だが突然叫ぶ。

「毎日、同じことの繰り返し!
退屈、退屈、退屈!」

突っ伏す。
その後も何かを口ごもるが聞き取れない。
「人生はそこに面白さを見つけられた人の勝ちなの」
とママは微笑んで
地獄達磨の赤くて丸い背中を擦る。
地獄達磨は嘔吐いたがゲロはしなかった。

「ダメだよ、こうなるまで飲ませちゃ」

同じくカウンターに座っていた
殺し屋のハスキージョーがママに言う。
ママは「ダメ!」と唐突に叫ぶ。
実はママは未来人。
人より3秒先の未来を見て生きている。
すなわちママはハスキージョーの
急なディープキスを、される前に見たのである。
そして3秒後にキスされた。
その時にはもうハスキージョーの
次のセリフをママは聞いていた。

「抱いてやるからドレス脱ぎな」

ママは苦悶の表情を浮かべる。
3秒後、ハスキージョーが
ママの頬を平手打ちにした。
それからママの尻を右手で、
乳房を左手で揉みしだく。

「ダメよ、達磨さんに見られる!」

ハスキージョーはジーパンのチャックを下ろした。
地獄達磨は泥酔して眠っていたが、
ハスキージョーは
「見せてやればいいじゃないか」とママを犯した。
3秒前に犯されて、今、犯されて。
つまりママは2度犯される。
ママは泣いた。
だが身体が反応してしまう。
ママは鳴いた。
ママはハスキージョーを求めた。
ハスキージョーは息を上げながら陰茎を取り出し、
ドレスの裾をたくし上げ、入れた。
ママが一際大きく喘ぐ。
夢中だった。
だが「ママさん!」という突然の呼びかけ。
ママとハスキージョーは驚いて求め合うのを止めた。
視線の先には地獄達磨が真っ赤な顔で立っていた。
酔っていてふらふらしている。
だが力強く続けた。

「俺とだけじゃなかったんですか!」

そう言ったと思った次の瞬間、
怒りのあまり地獄達磨は爆発した。
ママもハスキージョーの身体も
粉々に吹き飛んだ。
爆破の勢いは凄まじく
むき出しのコンクリートの壁に
無数のひびを作った。
そして、すべてを吹き飛ばした。
ウイスキーのボトルも、
カウンターチェアもソファーも生け花も。
パチパチと火があがる地獄のような店内に声が響いた。
それは地獄達磨が最期に叫んだ一言だった。

「人生なんてクソゲーだ!」
by nkgwkng | 2012-12-04 00:04 | 掌編小説
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