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その恋の速さは。

四月が満開の午後。
土曜日。

「桜の花びらって
秒速5センチメートルで
散るんだって」

真っ昼間のひまわり公園。
小学生が公園内の横断歩道で
何やら遊んでいる。
彼女たちにしかわからないルールで。
桜の花がひらひらと散っている。
それを見ながら有里子が言ったのだった。

しかし憲彦の返答は下品で。
「それさー、何かのAVの
タイトルじゃなかったっけ?」
憲彦がセンチメンタルの
かけらもなく言うので、がっかりした。
やっぱり女として見られていないのだな
とため息をつきたくなる。

「そんなんじゃない。
新海誠の映画だよ」
「え、誰それ? 新鋭のAV監督?」
「違うよ、≪君の名は。≫の人」
「ああ。悪いけど、
商業主義には興味がないんよ」

桜の花びらが惜しみもなく散っている。
その一枚が手のひらに。
はじまりもしなかったこの恋は、
秒速何秒なのだろうかと、
ピンクのそれを見ながら、
有里子は思う。
小学生女子の声が光速で駆け抜けた。
なんて言ったのかわからなかったが、
純粋で見えない。
速さとは関係ない。

◆◆◆

by nkgwkng | 2021-10-10 07:00 | 400字小説
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