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また書いてないんでしょ?!


ミエは書き続けている。
血を吸わなかったら死んでしまう吸血鬼みたいに。
《成功》なんていらないだけで、
小説が自己救済になればいいから。

それを聞いたミドリはすごく怒っていたっけ?
ってミエは笑って。

「《自己救済》なんて気持ちで書くな。
アマチュアかよ」というLINEが届いてから1年だ。
連絡は来ないし、ミエからLINEすることもなかった。

「プロ目指してるのに全然書き進めていないんでしょ」
って皮肉にもならない直球を
投げ込んでしまうかもしれないし。

ミエは高校の時、ソフトボール部の
エースだった腕前、豪腕。
全国大会にも出場したんだよ、準々決勝進出。
練習は厳しかったけれど、
ソフトボール自体は好きだった。
楽しかった、楽しむ才能があった。

ミドリにも書く才能と資質は
あるのかもしれない。
でも、楽しむ才能は皆無で痛々しいくらい。
苦しんで書くのが当たり前って、笑話かよってミエは。
ただミエは書く。
誰にも認められないことも恐れずに。

◆◆◆

# by nkgwkng | 2023-12-12 07:00 | 400字小説

孤独と至福

人はひとりで生きられないと知っているから、
ひとりで生きていける。
でも、マスオはひとりでは生きられないことを知らないので、
残念ながら……、無知。

吸血鬼になることを、ひっそり誰にも知られずに選んだ。
そうすれば何百年と生きられるし、
無敵なことは周知の事実。
でも、大事な魂は悪魔に奪われた。
それは死んだように半分永遠に生きるということ。
こんなはずじゃなかったとマスオは言わなかったけれど、
後悔しなかったというのは嘘になる。
吸血鬼の存在自体が嘘だから、
生き延びられないって矛盾に困惑。

長く生きることは幸福なのか。
そんな愚問に何百年という時間を費やすわけにはいかない。
長寿とは何人もの死を見送るってことだ。
その度に心は削られ、悲しみに打ちのめされる。
吸血鬼だからって傷つかないことはなくて、
マスオはただただ涙を流して死も受け流した。
だからみんな犬死に。
その報復もマスオは受けない。
待っているのは壮絶な孤独死。

◆◆◆

# by nkgwkng | 2023-12-11 07:00 | 400字小説

揚げたてのポテト

もう89歳だからって健康のことは気にしないトキオ。
生きられたってあと3、4年だろうって高を括っている。
遺書も書いた。
相続の手続きもスムーズにいくように準備してある。
妻のハツエは昨年、亡くなった。
顔に傷のある吸血鬼と戦っている際、
玄関で転倒して頭を強打。
息子は母親のことを思い出すからという理由で、
トキオとは別居したまま。
息子にだって大切な巣があるからって無理は言えない。
「人はひとりで死ぬ」って聞き慣れた戯言は
鋭利になって襲ってきそう。

その晩も酔っ払って「一思いにやってくれや」って呟いたら、
吸血鬼がやって来たじゃないか。
忘れもしないあの忌々しい顔の。
「殺してやるっ」とイキッたが、体は思うように動かない。
吸血鬼はトキオを一蹴。
それで尻餅をついたトキオの口に、
吸血鬼はフライドポテトを文字通り流し込む。
トキオは無惨に窒息死。
部屋にフライドポテトの匂いが充満して、
49日間も消えることはなかったという。

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# by nkgwkng | 2023-12-10 07:00 | 400字小説

もうしばらくお待ちください

ずっとパソコンの画面にその文言が。
タケシは忌々しくて、いよいよイライラしている。
15分も遅々として進行しない。
強制終了してやりたいが
調べている吸血鬼のデータが消えてしまったら
せつないので、待つことしかできない。

今時の吸血鬼は最弱らしい。
絶滅危惧種なので滅ぼすわけにもいかない。
たとえ人間を襲うとしてもダメなものは
ダメだって政治家が言ってる。
一番偉い人が言ってるのだから
正しいのだろうなって盲目的にタケシは観念して。

家族が吸血鬼に襲われた経験があったなら、
そんなバカじゃなかったのかも。
今は日本の1/3が吸血鬼被害に。
そんなわけで内閣支持率は軒並み下降の一途。
みんな怒ってる、今の政治に。

だけど、タケシには目の前のパソコンの
一挙手一投足の方が気になって苛立って仕方がない。
もうとっくに代え時を過ぎてるのに、
金がないって貯金のできないタケシは
やっぱり致命的にバカで。
いつまで経ってもパソコンを終了できそうにない。

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# by nkgwkng | 2023-12-09 07:00 | 400字小説

きみに夢中

折口信夫が面白いって、タカミネは片時も目を離さず。
マクドナルドで次が注文する順番なのに
オーダーするものも決めずに夢中に読んでいた。
血に飢えた吸血鬼みたい。

案の定、昼時の混雑時に待っている人に迷惑をかけた。
そして恋人のヨーコからの着信にも気づかない。
2時間もヨーコのことは、ほったらかし。
ようやく「電話くれた?」って呑気にLINEで返事。
電話で折り返ししなかったのは、
まだ折口信夫を読むつもりだったので、
店を出るわけにはいかなかったからだ。
ただ店内で通話は非常識だって、
そこだけは人並みな感覚を兼ね備えて。

「一緒にお昼食べない?って誘いたかったの」、
「ビッグマック食べちゃった」ってLINEのやりとり。
「じゃあ夜は?」ってヨーコが。
でも折口信夫を読みたかったから適当に嘘をついた。
「きみに夢中」っていう意味のスタンプを送って罪を重ねる。
折口信夫は難解。
でも恋もそうだってタカミネは気づいてなくて、お気の毒。

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# by nkgwkng | 2023-12-08 07:00 | 400字小説